「やあ、やあ。そこのお嬢さん。今、暇?」
そう言って、にへらにへらと鼻の下を伸ばして、女の子2人に声をかけている奴の名は、千石 清純。
「・・・大丈夫です!・・・・・・って言いたいところですけど、ちょっと、用事があるんで・・・!・・・ね?!!」
「そうそう!早く帰らないといけないんです!!」
「そうなの。そりゃあ、残念。」
千石は、そんな奴だが憎まれにくく、むしろこんな風に誘えば、ほとんどの女子生徒がYesと返事をしてしまうほどの人気だった。だから、この2人は本当に用事があるのか、あるいは・・・。
「「それでは、急いでるので・・・!!」」
「うん、まったね〜♪・・・いや〜、それにしても今の子達、なんであんなに急いで・・・・・・。」
その時、千石はふと、ある気配に気がついた。・・・これは、殺気だ。恐る恐る振り返ると、そこには予想通りの顔があった。
「あら。奇遇ね。キヨ。こんな所で何してるのかしら?部活はどうしたの?」
「あれれ。本当、奇遇だねー。こそ、こんな所で何してるの?」
口調は優しいが、顔は笑っていない、その彼女に、千石はあえて、明るい調子で答えた。
「私は、さっき、たまたまテニスコートに行ったのよ。そしたら、南君が、キヨがいない、って困っていたから探しに来たんだけど?」
「あ〜あ、そうなの。じゃあ、俺もそろそろ戻って・・・・・・。」
千石はまだ、明るい調子で続けた。しかし、彼女は先ほどまでとは、全く違う雰囲気で言った。
「さっき、何してたの?」
「・・・ま、いいじゃないか。ほら、戻らないと、南君が待ってるから、ね?」
「ふ〜ん。別にいいけどね。・・・・・・・・・今から、一言もしゃべらないから。」
最後にそれだけ言い残して、彼女は去った。
「〜!!待ってってば!さっきのは、謝るから!だから、しゃべんないとか、言わないでって!ね?」
そう言って、千石は彼女を引き止めたが、それを無視して、彼女は帰ってしまった。
「〜・・・。」
「それは、お前が悪いだろ。」
「わかってるよ〜・・・。だから、謝りたいんだけど、ちっとも口きいてくれないみたいだし・・・。」
「・・・っていうか、何度目なんだよ。」
そうツッコんだのは、部長の南 健太郎。先ほど、彼女に千石を探しに行かせた、張本人だ。
「そもそも!南がに頼むからだ。・・・地味’sめ。」
「なんでそうなる!っていうか、その呼び名はやめろって!」
「冗談だってば。・・・でも、今回はどうしたら許してくれるかなぁ?」
「その相談、俺は何回聞けばいいんだ?」
どうやら、こういったことは何度もあるらしい。
「・・・・・・そういえば、この前、さん、「今度、したら、別れる」って言ってなかったっけ?」
「そんなー・・・!!」
そして、どうやら先ほどの彼女と千石は付き合っているらしい。
彼女の名前は、 。千石や南達とは同じ学年で、千石とは中2の頃から、付き合っている。だから、学校のほとんど全員が、2人が付き合っていることを知っていた。しかし、千石が先ほどのように誘えば、たとえと付き合っていると知っていても、誘いに乗るものが多かった。だが、2人は喧嘩しながらも、なかなか息が合っていて、学校の公認カップルと言っても、過言ではなかった。だから、近くにがいたなら、さっきの女子2人のように断るのだ。と、もう1つ。彼女は怒るとものすごく怖いことも、有名だったのだ。だから、あの2人は慌てて帰ったのだろう。
「わかったよ。俺が聞いとけばいいんだろ?」
結局、俺の役目か・・・、と少し呟いて、南は言った。
「ありがとー!!ホンット、南君は俺の大親友!!」
「・・・都合のいい奴だな。」
「あ、さん。ちょっと、いいかい?」
「あら、南君。どう?キヨの調子は。」
それを聞いて、南は安心した。一応、心配しているのだ、と。
「今日、朝練見に行ったんだけど、アイツちっともやる気ないわね。」
「来てたの?」
「まぁね。」
そう言ったとき、ほんの少し、が照れていたのを、南は見逃さなかった。
「千石の奴、昨日の部活から、あの調子だよ。さん、千石も反省してるようだし、今日、見に来てくれない?」
「でも・・・。」
「それに、俺達、もうすぐ大会だからさ。千石にも頑張ってほしいわけ。だから、俺達の為にも来てほしいんだけど。」
そう南は言った。何度も経験していれば、そろそろ慣れてくるものなのだろう。・・・少し、南に同情してしまう。
「わかった。南君はうまいわね。そんな風に言われたら、行くしかないもの。・・・じゃ、今日の部活、見に行くわ。」
「ありがとう。千石のことも、許してやってくれよ。」
「わかったわ。」
本当に、南は慣れているようだ。
放課後。千石はとても低いテンションで、コートの方に向かった。
「キヨ、遅すぎ。やる気、あんの?」
しかし、そんな声が聞こえたかと思うと、千石はさっきまでの低いテンションは何処へ行ってしまったのか。パッと表情を変えて、こう大声で言った。
「?!!」
「もう、彼女の顔も忘れたの?」
「わ、忘れるわけ無いじゃん!!よかった〜。、許してくれたの?ホンットめんご!!」
千石は言いたい放題言った。
「・・・・・・わかったから。ちゃんと、部活頑張りなさいよ。」
その千石の勢いに、は押されてしまった。
「よ〜し!頑張っちゃうぞ!!も見ていくよね?」
「うん。南君に許可、得たから。」
「じゃ、一緒に帰ろうね!」
千石は笑顔で言った。
「・・・わかった。」
不覚にもは、その笑顔をかわいいと思ってしまったようだ。その様子を南は遠くから見て、微笑んでいた。
翌日。千石は一昨日からは、考えられないほどのやる気で、部活をしていた。
「本当、さんのおかげだよ。ありがとう。」
「いや。落ち込ませたのは、私が原因でもあるからね。」
「でも、本当千石が復帰して、よかったよ。もうすぐ、大会だからね。」
「そういえば、そう言ってたね。頑張ってね、部長!」
「ハハ。部長だなんて、あんまり言われないけどな。」
そして、大会当日。
「(もう・・・。なんで、寝坊するのよ・・・。う〜ん。キヨの試合に間に合うかな。)」
は、少し急ぎながら、コートに向かった。すると、ある声が聞こえた。
「見ろっ!!不動峰が押してる!?」
その声を聞いて、は必死になって走った。そう、今日の山吹中の相手は、不動峰なのだ。昨日、千石と南と話しているときに、その名を聞いた。
「明日は、不動産と試合なんだ♪」
「不動産と?」
「だから、千石。不動峰だって。」
「ふ〜ん。強いの?その不動産って。」
「いや、さんまで・・・。」
だから、は不動峰が押している、というのを聞いて、心配になったのだ。
「(不動産が押してる、って?!キヨはどうなの?)」
そして、が着くと、すでに千石の試合は始まっていた。――ゲームカウントは3-3。そして、学校全体での勝敗は、2-1と不動峰がリードしていた。つまり、この試合、千石が負ければ、そこで山吹の敗北が決定してしまう。
「ゲーム神尾、4-3!!」
そうこうしている内に、いつの間にか相手にゲームを取られていた。
「キヨ・・・!」
は小声でそう言った。しかし、周りは、神尾!神尾!と相手の名前ばかりを呼んでいる。
「・・・な、なんて速さ!」
その、相手の神尾は、コーナーをついた、千石のうまいコースも難なく打ち返した。そして、今度の逆サイドも打ち返した。テニスがわからないでも、神尾の異常なスピードがわかった。しかし、千石も黙ってはいなかった。
「・・・・・・何・・・?今の。」
(そして、周りも)よくわからなかったが、なぜかその異常なスピードの神尾が、千石のショットに一歩も動けなかったのだ。すると、今度は山吹!山吹!という声が大きくなった。
「よ、よかった・・・。」
まだ、ゲームカウントから見れば、千石が負けているのだが、それでもは、千石が1ポイント取ったことに、一安心した。
「ゲーム千石、4-4!!」
千石のボールがネットに当たって、向こうのコートに入った。
「ラ、ラッキー・・・。」
そうは呟いた。そのとき、千石も何やら呟いているのが見えた。
「・・・あ。ラッキー、ってキヨの・・・。そっか。キヨも今・・・。」
そう。千石も今、ラッキー、と呟いていたのだ。
「うん。頑張れ、キヨ。」
その声が届いたのか、千石は次のゲームも取ることができた。
「ゲーム千石、5-4!!」
「やったです、千石先輩っ!!」
そんな、後輩の壇の声が聞こえた。そして、あと1ゲームだ、という声も。
「あと・・・、1ゲーム・・・。」
は、そう呟いた。しかし、千石はその1ゲームを取ることは出来なかった。1度は、千石のマッチポイントまでいったのだが、そこから神尾に挽回され、ついにタイブレークに突入した。
「2-3、千石リード。」
そのとき、相手の神尾がトスを失敗した。どうやら、相当疲れているようである。・・・そして、ついに・・・・・・。
「神尾君!?」
神尾がふらつき、倒れそうになったのだ。同じ学校の子が心配し、そう叫んだ。しかし・・・。
「ちきしょーっ!!」
そこから、神尾はこけながらも、ボールを返したのだ。
「ゲームセット、ウォンバイ、神尾、7-6。」
結果、千石は負けてしまった。
「――結果、3勝1敗で不動峰中(東京)、ベスト4進出です。」
は、必死に千石を探していた。
「キヨ!!」
「あ。、来てくれてたんだ。いや、嬉しいなぁ。」
千石が明るく、そう言った。
「あの・・・。キヨ。」
「うん。メンゴ。負けちゃった。折角、来てくれたのに。」
また千石は、いつもの調子で言った。
「うん、本当。キヨって、いつもラッキーって言ってるくせに、試合では、いつも負けてるし、他の女の子を誘ってるのも、しょっちゅう私に見つかるし。本当にラッキーなの?・・・・・・・・・でも、かっこよかったと思う。テニスはよくわかんないけど、かっこよかったよ。何て言えばいいのか、わかんないけど。とにかく、かっこよかった。」
そう言いながら、は涙を流した。きっと、この前、千石の誘いを断った女の子が見れば、とても驚くだろう。それほど、は滅多に泣かないのだ。それでも、今、は涙を流している。
「・・・。」
千石もどうやら、驚いて・・・いや、むしろ、その滅多に泣かないを泣かしてしまったのは、自分の所為だと、悔いているようだった。
「なんかね、キヨがかっこよすぎて、涙が出てきた。私、キヨのこと、好きだけど、テニスしてるキヨが1番好きだと思う。」
そう言って、は微笑んだ。涙を流しながら。
「・・・ありがとう。」
そう言うと、千石は何処かに行ってしまった。
「うん、かっこよかったよ、キヨ。」
そして、その後ろ姿に、はもう1度、そう言ったのだ。
「千石君。」
伴田が誰もいない所を見て、そう言った。しかし、返事はあった。
「スマン、伴爺。また負けちまったよー。・・・ハハ。」
どうやら、千石は屋根の上にいるようだった。そして、千石は口調を変え、言った。
「伴爺・・・。もっかい一から自分のテニスを変えようと思ってます。・・・・・・勝つために!」
自分の為に、そして大好きなあの子の為に。自分がテニスをしているときが、1番好きだと言ってくれた。その子の為にも勝ちたい、とそう思ったのだ。
「(たしかに、俺は試合にも負けるし、女の子を誘ってるときにに、すぐ見つかるけど、それでも俺はラッキーだと思う。だって、に会えたから。)」
そして、千石は誰にも聞こえないくらいの声で、呟いた。
「今度は、絶対、勝ち試合を見せるよ、!」
千石は、その屋根から飛び降りた。決意を胸に秘めて。
初千石夢でございます!千石さんは、原作でもアニメでもミュでも、大好きなキャラです。
なので、ちょっと真面目に(いや、いつも真面目ですよ?!/笑)、原作沿いなんて物にしてみました・・・!
他の夢でも、一部原作沿いっていうのはあるんですが、こんなに長くやったのは、初めてです。
まぁ、長くって言っても、後半部分だけですけど・・・;;私なりに頑張ったつもりです!
それと、私は南さんも大好きです(笑)。
この2人のカップルを応援する南さん・・・。素敵です・・・!!まさに派手です・・・!!(笑)